「やっちゃんに読んでもらおうと思って…」と、親しい友人の茂木清志さんから『残したきもの』という題名の歌集をいただきました。これは清志さんのお母さんの茂木文子さんの3冊目の歌集であり、孫の貴洋さん(清志さんの長男)が絵本のようにかわいい挿絵を描いています。
清志さんはこの歌集について「平成21年12月12日、母の80歳の誕生日に我家に届く予定でしたが、残念ながらその日は母の告別式となってしまいました」と挨拶状に書いています。
書道、短歌など多彩な趣味をもっていた文子さんは、いつもたくさんの友人に囲まれていました。急逝された文子さんのお通夜は生前の面倒見のいい人柄を偲ばせるように弔問客の列が長く続いていました。
生前はいろいろなところで顔を合わせ、そのたびに「いつも若いもんがお世話になってて、悪りんねー」と言われました。「お世話んなってるのはこっちですよ」という返事も私の決まり文句でした。歌集を読んでいるうちにそのときの情景が浮かんできました。
この歌集が出来上がるのをどんなに楽しみにしていたことかと思うと胸が熱くなりました。
受話器より我の誕生祝う唄練習積みしとママの一言
傷む足かばいし亡夫と巡りたる百観音の鈴の音思う
黄疸の癒えざるままに逝きたりき凝りいしカメラにフィルム残して
唐突にジョークをとばす子の弾けるじょんがら節の撥の音高し
「一年を大切に生きよ」の訓辞ありレクダンスの序曲始まる
あえぎつつ年賀はがきに印を押す命限れる事は知り得ず
残したきものなど何もなけれども唐三彩の小馬えらびぬ
改めて茂木文子さんのご冥福をお祈りいたします。