『日本でいちばん大切にしたい会社』(坂本光司著・あさ出版)という本を2冊読みました。2冊の本に紹介されている8つの会社に共通しているものは「人を幸せにする優しさ」だと思いました。
日本理化学工業㈱という会社は社員50名のうち7割が知的障害を持った人たちで、粉の飛ばないチョークを作っている会社だそうです。
50年前、養護学校の先生が生徒の就職をこの会社に何度も頼みに来ました。「就職が無理ならせめて働く体験だけでもさせてくれませんか。そうでないとこの子たちは、働く喜び、働く幸せを知らないまま施設で死ぬまで暮らすことになってしまいます」と、頭を地面にこすり付けるようにお願いする先生の姿に「1週間だけ」ということで2人の少女に就業体験をさせてあげることになりました。仕事は簡単なラベル貼りでしたが幸せそうな顔で一所懸命に仕事をしていたそうです。
1週間後、十数人の社員全員が大山泰弘社長(当時は専務)に「あの子たちを正規の社員として採用してあげてください。あの子たちにできないことがあれば私たちがみんなでカバーします」と頼みました。「人間として、本当の幸せは、のんびり暮らすことではなく、人に必要とされて働き、自立することなんだ」と気づいた大山社長は、それ以来50年間、積極的に障害者を雇用し続けることになったのだそうです。
あるとき、この本の著者の坂本光司さんがこの会社を訪ね、応接室で大山社長と話をしていると、腰の曲がった白髪の女性が「よくいらっしゃいました。どうぞコーヒーをお飲み下さい」と小声で言って、また、お盆を持って帰っていきました。「彼女です。彼女がいつかお話した最初の社員なんです」と大山社長がぽつりと言いました。
50年間、彼女をあたたかく見守り続けてきた大山社長、50年前の養護学校の先生や当時の社員の方たちの思いが一瞬のうちに想像され、坂本さんは涙をこらえることができなくなったそうです。
この本は著者である坂本光司さんの「日本でいちばん大切にしたい会社」への思いと著者の人柄が伝わってきてとても共感しました。